「PM2.5」（微小粒子状物質）は、大気中に浮遊する2.5マイクロメートル以下の粒子のことで、1マイクロメートルは、1mmの1/1000になる。中国では年間17万人がPM2.5を吸い込むなどして死んでいると推計され、偏西風に乗って現在、日本にもPM2.5が飛んできている。
日本でPM2.5についての環境基準は、呼吸器疾患や循環器疾患、肺がん等に関する様々な国内外の疫学的な知見を基に、1年平均値を15マイクログラム/平方m以下で且つ1日平均値が35マイクログラム/平方m以下という事が決められている（2009年、環境基本法第16条第1項）。
だが、PM2.5についての基準値は今のところこれだけで、米国の環境保護庁（EPA）が定めたAir Quality Index（AQI）によれば、35マイクログラム/平方mは「許容範囲内（12.1～35.4マイクログラム/平方m）」だ。世界保健機関（WHO）が定めたPM2.5の基準値によれば、37.5マイクログラム/平方mで住民の死亡率が1.2％上昇する。
PM2.5のような微小粒子は、物が燃える際に出たり、硫黄酸化物や窒素酸化物、揮発性有機化合物といったエアロゾルの化学反応などによって粒子になったりして生じる。工場の煤煙や車の排気ガスなどからも出るが、タバコの煙からもPM2.5が出ている。
普通の紙巻きタバコの場合、1本吸うと28～36mgのタールを含んだエアロゾルが発生する。喫煙者が吸い込む主流煙も受動喫煙をおよぼす副流煙も、1マイクログラム以下の微粒子が含まれ、その微粒子の実態はタールや発がん性物質が多い多環芳香族炭化水素、ニトロソアミン、放射性物質であるボロニウムなどだ。
非燃焼・加熱式タバコは、燃焼式タバコとほぼ同レベルのニコチンやホルムアルデヒド、青酸ガス（アンモニア臭）などの有害物質が含まれており、加熱によりニコチン以外の液体成分が分解され、発癌性物質に変化することが指摘されてるので、従来のタバコと同じ健康被害が出る可能性がある。
タバコ煙のPM2.5については、これまでも多くの研究があり、その有害性が確かめられている。前述の米国EPAのAQIによれば、日本の屋内のPM2.5濃度は喫煙室で約630マイクログラム/平方m、パチンコ店で約200マイクログラム/平方m前後。米国で最も高かったのはニューヨークのバーの約400マイクログラム/平方m。
この濃度は、死亡リスク増加率で言えばかなり危険な数値だ。喫煙者は自分が吸っているタバコの主流煙とタバコの先から出た副流煙を同時に吸っており、微小粒子であるPM2.5はいくら換気施設を設置してもドアの隙間や人の出入りなどによって喫煙室の外へ出てしまう。受動喫煙を防ぐためには完全禁煙しかない。
加熱式タバコのPM2.5は、産業医科大学の大和浩教授（健康開発科学研究室）らの実験により、アイコス（iQOS、フィリップ・モリス・インターナショナル）、グロー（glo、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ）、プルーム・テック（Ploom Tech、日本たばこ産業）について実際の呼気をレーザー光線で調べてみたところ、いずれも150マイクログラム/平方m（口元から1mの距離）を越えるPM2.5が測定され、グローでは口元から2mの距離でも約800マイクログラム/平方mのPM2.5を観測している。
加熱式タバコを吸うことで、こうしたPM2.5が密閉空間に漂い続け、濃度を上げていくとすると、日本の緩い基準値である35マイクログラム/平方mを越える危険値になることが予想される。
アイコスの最大値である約150マイクログラム/平方m（口元から1mの距離）が1日平均値になるとすれば、その成分が何であれ、死亡リスク増加率はかなり高くなる。PM2.5サイズの微小粒子が呼吸器から入り込む事で、循環器系など体内の各部位に炎症が起きやすくなり、また血液の凝固系や免疫系に影響を与え、がん発症や疾病リスクが上がる。
現代社会は喫煙者・非喫煙者を問わず、私たちはタバコの煙だけでなく多種多様な大気汚染にさらされている。中国から飛んでくるPM2.5も脅威だが、少しでもリスクを低減させる為、タバコの煙からは何とか避けたい。
